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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)8138号 判決

原告(反訴被告) 株式会社山銀

右代表者代表取締役 岩崎銀一

右訴訟代理人弁護士 森景剛

被告(反訴原告) 飯田一男

反訴原告(もと被告) 久松俊秀

右両名訴訟代理人弁護士 山野一郎

主文

被告(反訴原告)飯田一男は原告(反訴被告)に対し、金九三万五二五〇円及びこれに対する昭和五〇年九月一三日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴、反訴を通じ反訴原告両名(被告及びもと被告)の負担とする。

この判決は、第一項にかぎり原告(反訴被告)において金三〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

主文第一項と同旨

訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

仮執行の宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

原告(反訴被告)の請求を棄却する。

訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

原告(反訴被告)は反訴原告(被告及びもと被告)に対し金一三五〇万円及びこれに対する昭和五〇年六月一〇日から支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

仮執行の宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

主文第二項と同旨

訴訟費用は反訴原告両名(被告及びもと被告)の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求の原因

1 原告(反訴被告、以下単に原告という。)は不動産仲介を業とするものであるが、かねて被告(反訴原告)飯田一男(以下単に被告飯田という。)から保谷駅に近い店舗用地の斡旋を依頼されていたところ、昭和四九年六月訴外本橋源太郎から別紙目録記載の土地建物の売却斡旋を依頼されたところから、被告飯田に対し現地の案内、価格、その支払方法その他の交渉など仲介した結果、同年七月二三日、訴外本橋源太郎を売主、反訴原告両名(被告及びもと被告、以下単に被告らという。)を買主として、両者間に別紙目録記載の土地及び建物(以下本件土地建物という。)につき代金は金六二三五万円、代金完済と引換えに被告らまたは被告らの指定する者に所有権移転登記手続及び引渡しをする旨の約定で売買契約が成立した。

2 被告飯田と原告間には、前記店舗用地の斡旋を依頼する際、宅地建物取引業法一七条一項にもとづいて制定された建設省告示一五五二号で定める最低の売買価格の一〇〇分の三の手数料を支払う旨の黙示の合意があった。

仮に、右主張が認められないとしても、被告飯田は商法五一二条により原告に対し仲介手数料を支払うべき義務があるところ、右建設省告示によると、仲介手数料は宅地建物の売買価格が二〇〇万円以下の部分については一〇〇分の五、二〇〇万円を超え四〇〇万円以下の部分については一〇〇分の四、四〇〇万円を超える部分については一〇〇分の三と定められているが、原告は本訴においては売買価格の一〇〇分の三の範囲でのみ支払を求めることとするので、被告飯田の支払うべき額は金九三万五二五〇円となる。

3 原告は、被告飯田に対し、昭和五〇年九月五日到達の書面をもって、同書面到達の日から七日以内に仲介手数料を支払うよう催告した。

よって、原告は被告飯田に対し、右金九三万五二五〇円及びこれに対する昭和五〇年九月一三日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴請求の原因に対する認否

1 本訴請求の原因1につき、被告らが原告主張の日に本件土地建物を主張の代金額で買受ける旨の契約を締結したことは認めるが、原告は仲介人ではなく、訴外本橋とともに売主であった。

2 同2のうち、黙示の合意があったとの事実は否認し、その余の主張は争う。

3 同3の事実は認める。

三  被告の主張

1 後記反訴請求の原因において主張するとおり、前記売買契約は訴外本橋及び原告がその後約定の地積訂正を行わず、かつ本件土地建物の所有権を取得しないため昭和五〇年五月二九日解除された。

2 また、仮に原告に仲介手数料支払請求権があるとしても、訴外本橋に右のような債務不履行があり、被告は後記反訴請求原因において主張するとおりの損害を被ったものであるから、原告の仲介手数料支払請求は権利の濫用というべきである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張はいずれも争う。

(反訴)

一  請求の原因

1 被告らは、昭和四九年七月二三日、原告及び訴外本橋から本件土地建物を次の約定で買い受ける旨の契約を締結した。

(1) 代金 六二三五万円

(2) 代金支払方法

(イ) 契約時手付金として金一〇〇〇万円

(ロ) 中間金として同年八月末金一〇五〇万円、同年九月末金一〇五〇万円

(ハ) 残金三一三五万円は同年一〇月末所有権移転登記手続と引換え

(3) 本件土地は登記簿上は二四四・六二平方メートルとなっているが、実測上は三四四・九七五平方メートルあるので、実測面積で売買することとし、売主において第一回の中間金の支払期日である昭和四九年八月末までに登記簿の地積訂正を行うこと。

2 被告らは、右契約にもとづき契約成立時に手付金一〇〇〇万円、その後中間金として金四五〇万円を支払ったが、原告及び訴外本橋は約定の昭和四九年八月末になっても地積の訂正を行わず、しかも右売買契約は第三者所有物売買で、本件土地は訴外青木伍作、本件建物は訴外株式会社保谷硝子の各所有であったが、原告らはその後右訴外青木伍作らから本件土地、建物の所有権を取得しておらず、したがって被告らに所有権移転登記手続をすることができないことが明らかとなったので、被告らは昭和五〇年五月二九日原告らに対し口頭で売買契約を解除する旨の意思表示をした。

3 したがって、原告らは被告らに対し、既払金一四五〇万円を返還すべきところ、内金一〇〇万円を返還したのみで残金を返還しない。

4 仮に、前記売買契約において原告が売主でなく仲介人にすぎなかったとしても、原告は昭和四九年七月三日被告らに対し、右売買契約の履行につき保証し、一切の責任を負う旨約した。

5 また仮に、原告が売主でなく仲介人にすぎなかったとしても、本件土地、建物は前記のとおり第三者の所有であったから売主において確実に所有権を取得できるか否かを十分確めたうえ仲介すべき義務があり、また仲介人としては訴外本橋に対し所有権を取得するよう促すべきであったのにこれらを怠り、被告らに対し既払金相当額の損害を与えたのであるから、原告は右損害を賠償すべき義務がある。

よって、被告らは原告に対し、契約解除に伴う原状回復もしくは保証債務の履行、もしくは債務不履行にもとづく損害賠償として金一三五〇万円及びこれに対する昭和五〇年六月一〇日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  反訴請求の原因に対する認否

1 反訴請求の原因1のうち、被告ら主張の日に訴外本橋と被告ら間で本件土地建物を主張の代金額で売買する旨の契約が締結されたことは認めるが、原告も売主であったこと、右売買契約中に売主において地積訂正の手続をする旨の約定があったことは否認する。

2 同2ないし5の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

(本訴請求について)

一  原告主張の日に、被告らが訴外本橋源太郎から本件土地建物を代金六二三五万円で買受ける旨の契約を締結したことは当事者間に争いがないところ、原告は自己が右売買契約を仲介したものであると主張するのに対し、被告飯田は原告は仲介人ではなく売主であると主張するので、まずその点について判断する。

《証拠省略》によると、本件土地建物はもと訴外高橋合名会社の所有であったものを、土地を訴外青木伍作が、建物を訴外株式会社保谷硝子がそれぞれ買受けたため、両者間で訴訟問題にまで発展するに至ったところから、訴外本橋が仲に入って仲裁した結果、両者とも右訴外本橋に対してなら売却してもよいとの意向を示したので、同訴外人としてはこれを転売して利益を収めようと考え、かねて知合いの不動産仲介業者である原告会社の代表者に売却斡旋を依頼し、原告会社代表者としても被告飯田からかねて営業用店舗の購入斡旋方を依頼されていたところから、早速に本件土地建物を同被告に紹介し、両者間に立って種々斡旋交渉した結果前記売買契約成立するに至ったものであること、右売買契約締結に際し、本件建物については訴外本橋においていまだ訴外保谷硝子から買受けていなかったが、本件土地についてはすでに訴外青木伍作から買受けていたので、右売買契約においては訴外本橋が売主となり、原告会社は仲介人となって売買契約書を作成したものであることがそれぞれ認められる。《証拠判断省略》

右認定事実によると、本件売買契約における原告会社の地位は売主ではなく、単なる仲介人にすぎなかったと認めざるを得ない。

二  被告飯田は、右売買契約においては売主である原告らにおいて地積訂正の手続を行うとの約定があったのにこれを行わず、また所有権者である訴外青木伍作及び保谷硝子から本件土地建物の所有権を原告らにおいて取得しなかったから、その後右売買契約が解除された旨主張する。

しかしながら、被告の右主張は、原告も本件売買契約における売主であることを前提とするものであるところ、前記認定のように本件売買契約において原告は売主ではなく仲介人にすぎなかったのであるから、右主張はその前提において誤りがあるのみならず、もともと仲介契約の場合、仲介によって売買契約が一たん成立した以上、その後売主もしくは買主の債務不履行によって売買契約が解除されたとしても仲介人の仲介手数料支払請求権には何らの消長を及ぼすものではないと解されるから、被告の右主張はその理由がないものといわざるを得ない。

次に、被告飯田は、訴外本橋に債務不履行があり、同被告において既払内金額相当の損害を被ったから、原告の仲介手数料支払請求は権利の濫用であると主張するが、仮に右主張のような事実があったしても、そのことから原告の本訴請求が権利の濫用であるということはできず、右主張も理由がない。

三  ところで、原告は被告飯田との間に売買価格の三パーセントの手数料を支払う旨の合意があったと主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、不動産仲介業者が委託にもとづいて仲介し、仲介に成功した場合、手数料支払の合意がなくても商法五一二条により当然に相当額の手数料を請求できるものと解すべきところ、宅地建物取引業法一七条一項にもとづいて制定された建設省告示一五五二号では右手数料額につき原告主張のとおり定められていることが明かであり、さらに本件売買の経緯その他諸般の事情を考慮するならば本件において原告の請求し得べき手数料額は原告の主張する前記売買価格の三パーセントにあたる金九三万五二五〇円が相当と認められる。

四  しかして、原告が被告飯田に対し、昭和五〇年九月五日到達の書面をもって同書面到達の日から七日以内に仲介手数料を支払うよう催告したことは同被告の認めるところである。

五  従って、原告が被告飯田に対し、右金九三万五二五〇円及びこれに対する昭和五〇年九月一三日から支払ずみまで商事法定利率年六分の遅延損害金の支払を求める本訴請求はその理由があるものというべきである。

(反訴請求について)

六 被告らが主張の日に、訴外本橋から本件土地建物を代金六二三五万円で買受ける旨の契約を締結したことは当事者間に争いがない。

七 被告らは、右売買契約において原告も売主であり、かつ右売買契約においては昭和四九年八月末までに売主において地積訂正手続を行うとの約定が附されていたのにかかわらず原告らにおいてこれを履行せず、また原告らにおいて本件土地建物の所有権を訴外青木伍作、同保谷硝子から取得しなかったので右売買契約を解除した旨主張するが、原告が右売買契約における売主ではなく仲介人にすぎなかったことは前記認定のとおりであるから、被告らの右主張はその前提において異なり、その理由がないものといわざるを得ない。

八 次に、被告らは原告が訴外本橋の前記売主としての債務の履行につき保証した旨主張し、《証拠省略》中に右の趣旨に沿うかの如き供述部分がないのではないが、他にこれを認めるべき証拠はなく、右被告本人の供述のみをもってしてはいまだ被告らの右主張を認めることはできない。

九 さらに、被告らは、原告において売主である訴外本橋が本件土地建物の所有権を確実に取得できるか否かを十分確めたうえ仲介すべきであり、また訴外本橋に促すべき義務があったのにこれを怠った旨主張するが、《証拠省略》によると、訴外本橋は本件土地については本件売買契約締結前の昭和四九年七月一日訴外青木伍作から金二五九〇万円で買受ける旨の契約を締結し、また本件建物については同年六月三日訴外保谷硝子から金三〇〇〇万円で譲渡することの承諾を得ていたことがそれぞれ認められる(他に右認定を左右する証拠はない。)から、原告として義務の懈怠はなかったものというべきである。

一〇 そうだとするならば、被告らの反訴請求はその余の点について判断するまでもなく、その理由がないものといわざるを得ない。

一一 以上の次第であるから、原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、被告らの反訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎)

〈以下省略〉

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